Paleontological Research 日本語要旨
2015 Vol.19 No.2 Supplement, No. 2, No.1
2015 Vol.19 No.3
Matsui, K. and Kawabe, S., 2015: The oldest record of Paleoparadoxia from the Northwest Pacific with an implication on the early evolution of Paleoparadoxiinae (Mammalia: Desmostylia). Paleontological Research, vol. 19, 251–265.
北西太平洋から発見された世界最古のPaleoparadoxia:パレオパラドキシア亜科(哺乳類 束柱類)の初期進化に与える意義
北海道築別地域に分布する下部中新統から発見されたPaleoparadoxiaの新標本の記載を行った.新たに見つかった化石は,右肩甲骨遠位端,右上腕骨近位端及び肋骨の一部で,石灰質細粒砂岩の転石中に含まれていた.本標本は束柱類Paleoparadoxia属に同定されたが,保存状態が極めて良好であったことから,今回はじめてPaleoparadoxia属における肩帯,特に上腕骨形態の詳細を明らかにすることができた.まず本属に見られる特徴的な形質を新たに明らかにすべく,既存の束柱類との比較を行った.その結果,本属の上腕骨では大結節が骨頭の高さを越えて近位へ伸長し,小結節は内側に位置し内側へ突出していることがわかった.本標本が含まれていた転石は下部中新統三毛別層分布域から見つかっており,岩相・包含化石相から,三毛別層由来のものであることが断定された.軟体動物化石群集から,三毛別層は冷水系で堆積したものであることがわかっており,そのためPaleoparadoxiaは温暖地域だけでなく冷水環境にも生息していたことが示唆された.本標本の発見された層準の堆積年代は23.8±1.5から20.6±1.0 Maと報告されている.およそ19 Maの秩父盆地産Paleoparadoxiaがこれまで本属の最古記録とされていたが,本標本はこれよりも古いことから最古のPaleoparadoxiaであることが明らかになった.さらに,本標本の年代はパレオパラドキシア亜科の最古記録ともおおよそ近い値であることから,パレオパラドキシア亜科における基盤的且つ最古種(北東太平洋のArchaeoparadoxia)と派生的な種(北西太平洋のPaleoparadoxia)がほぼ同時期に生息していたことが示された.このことから,パレオパラドキシア亜科は,その進化の初期段階には既に北東太平洋から北西太平洋へと生息範囲を広げていたと考えられる.
Wang, Y., Du, W., Komiya, T., Wang, X. L. and Wang, Y., 2015: Macroorganism paleoecosystems during the middle–late Ediacaran period in the Yangtze Block, South China. Paleontological Research, vol. 19, 237–250.
南中国揚子江地塊の古生物学的研究から推定されるエディアカラ紀中期から後期のMacroorganism(肉眼で見える大きさの生物)の生態系の進化
堆積物表層から水中,そして堆積物内部へといった生物生息環境の拡大,すなわちニッチの拡大はしばしば生態系の進化を伴う.エディアカラ紀中期~後期における生態系の進化の主要な過程が,南中国揚子江地塊の庙河(Miaohe)生物群(湖北省西部)や瓮会(Wenghui)生物群(貴州省北東部)等の陡山沱累層のMacroorganismの化石に残されている.それらのMacroorganismは主に,樹枝状や非樹枝状の藻類,多くの後生動物(蠕虫状の動物, trilobozoan, 海綿動物やクラゲ様動物)や生痕化石からなり,温暖かつ静穏で,太陽光や酸素,栄養塩に富む熱帯性の海洋で生息していたとされる.その生物群の生息環境は地形や生態学的に,表生生物層,高層の固着性生物層と浮遊性生物層の3層に区分される.エディアカラ紀中期から後期のMacroorganismの生態系において,生物の多様化,生物間競争の激化,環境変化に対する対応能力の強化,生体維持エネルギーの効率的な転換といった大きな変化が起きた.Macroorganismの生態系の形成は,複雑且つ多層の生態系の確立と大気酸素の上昇において重要な過渡期となり,カンブリア爆発の序章となった.
Shigeta, Y. and Kumagae, T., 2015: Churkites, a trans-Panthalassic Early Triassic ammonoid genus from South Primorye, Russian Far East. Paleontological Research, vol. 19, 219–236.
極東ロシア・南部プリモーリエから産出するパンサラッサ海を横断して分布した三畳紀前期アンモナイトChurkites属について
三畳紀前期アンモナイトChurkites属は,アークトセラス科に属し,殻の腹側がとがる特徴をもつ.極東ロシア・南部プリモーリエの数セクションから採集された多数の標本および既存種の模式標本をもとに,Churkites属の分類,生層序,古生物地理について検討した.その結果,Churkites syaskoiは極東ロシアの上部スミシアン階(下部オレネキアン階)Anasibirites帯から記載されたC. egregiusのシノニムであると判断される.C. egregiusは,タービダイト末端部の葉理が発達した泥岩層中に比較的豊富に産出するが,砂岩層中では希である.一方,Anasibiritesは,砂岩層中では豊富に産出するが,泥岩層中では希である.このため,泥岩相においては,これまで上部スミシアン階の対比が困難であったが,C. egregiusは泥岩相においても上部スミシアン階の正確な対比を可能にする.両アンモナイトの産出状況の違いは,これらが異なる化石化の過程を経た,あるいは異なる生息場を持っていたことを強く示唆する.Churkites属は,スミシアン中期にパンサラッサ海東岸に分布していたArctoceras tuberculatumから分化し,パンサラッサ海を横断し,スミシアン後期にパンサラッサ海西岸でC. egregiusが派生した.このパンサラッサ海の横断は,西方に向かう赤道海流や浅海域を提供する飛び石状の礁や島によって助成されたかもしれない.
Ishida, Y., Fujita, T. and Thuy, B., 2015: Two ophiuroid species (Echinodermata, Ophiuroidea) from lower Miocene deep-sea sediments of Japan. Paleontological Research, vol. 19, 208–218.
日本の下部中新統の深海堆積層から産出したクモヒトデ類(棘皮動物門,クモヒトデ綱)2種
2種のクモヒトデ類の化石が日本の下部中新統の深海堆積層から産出した. 三重県の下部中新統大井層(一志層群)から得られた1種は,75個体を超える体化石と数多くの分離した長い腕の密集体からなり,現生種のOphiomusium lymani(ライマンクモヒトデ)と同定された.静岡県の下部中新統志太層(大井川層群)から得られたもう一つの種は1 個体の体化石で,現生種のOphiosphalma cancellataと同定された.これらの化石は現生種と同定された最も古いクモヒトデ類の化石記録である.また,後者はOphiosphalma 属の初めての化石記録となる.これらの化石は近縁であるOphiomusium 属とOphiosphalma 属が前期中新世にはすでに分岐していたことを明らかにした.さらに,当時のOphiomusium lymaniとOphiosphalma cancellata は現在と同様に上部漸深海帯に生息していたことを示唆している.
Tomita, T. and Yokoyama, K., 2015: The first Cenozoic record of a fossil megamouth shark (Lamniformes, Megachasmidae) from Asia. Paleontological Research, vol. 19, 204–207.
アジアで初めて記録された新生代メガマウスザメ(ネズミザメ目、メガマウスザメ科)の歯化石
メガマウスザメ(ネズミザメ目、メガマウスザメ科)はプランクトン食に適応した板鰓類の一系統であるが,その化石記録は極めて限られている.本論文では,後期中新世から前期更新世の地層に由来すると考えられるメガマウスザメ類の単離歯化石について報告する.現在のところ,この標本はアジアで唯一の確実なメガマウスザメ類の化石記録である.
Ohno, R., Sentoku, A., Masumoto, S. and Ezaki, Y., 2015: Morphological variability in azooxanthellate scleractinian dendrophylliids governed by regular modes of asexual reproduction: a computer simulation approach. Paleontological Research, vol. 19, 195–203.
規則的な無性生殖の支配下で生じる非造礁性キサンゴ科サンゴの形態の多様性:コンピューターシミュレーションによるアプローチ
サンゴは世界中の幅広い水域で,さまざまな成長形態や生活様式を示しながら繁栄している.また,サンゴは,カンブリア紀以降,顕生累代を通じて化石記録が残されている.そのため,サンゴの成長形態,生息環境,そして生活様式の関係を解明できれば,サンゴ化石を用い,幅広い範囲の年代の古環境や,古生態の復元が可能になる.群体サンゴの形成過程については,「周囲の環境(外的要因)に影響されサンゴ自体がどのように形を変化させるのか」という観点からの研究が主流である.その一方で,サンゴ自体に固有な成長様式(内的要因)に基づいた研究はほとんど行われていない.外的要因に対する応答のみでサンゴの群体形態を説明することはできない.同じ環境で生息するサンゴでも,種が違えば異なる成長形態をとる.環境に即して形態を変える能力も,種による違いがある.近年,多様な群体形態が形成されるキサンゴ科の群体サンゴには,「無性増殖(出芽)の規則性」が存在することが解明された.サンゴの群体形態をより深く理解するためには,群体形態と周囲の環境との関係のみならず,特有の出芽様式と群体形成様式,そして,群体形態が示す生態学的・物理学的な特性を詳細に調べることが必要である.この目的のために,キサンゴ科の出芽規則に基づいて,キサンゴ科群体サンゴの成長を再現し,群体モデルを出力するソフトウェア『Coral Simulator』を開発した.Coral Simulatorによるシミュレーションは,サンゴのモデルに「成長」と「出芽」を繰り返させ,群体の形成過程を再現する.シミュレーションでは環境要因は一切考慮せず,サンゴ自体が有する成長様式のみを考慮する.「出芽傾斜」,「出芽方向」「出芽間隔」,の主に3つのパラメータを変化させることで,多様な成長形態を得ることができた.Coral Simulatorでは,群体の体積や個体数などが時間の進行とともにどのように変化するのかを算出することが可能である.自然界には実在しない,あるいは稀な成長形態の再現も可能である.このような形態にはどのような特徴があるかを調べることで,サンゴの形態を制約する要因を推定することも可能である.パラメータのうち,「出芽傾斜」は群体の形状に影響し,出芽傾斜が小さいと群体はドーム状になり,出芽傾斜が大きいと樹状になる.また,出芽傾斜が小さいと親個体の出芽が娘個体によって妨げられ,群体の個体数は少なく,体積は小さくなる.「出芽間隔」が小さくなると,体積は大きく,個体数は増加する.ただし,個体数が増加することで,他個体との衝突が増し,成長を止める個体が増加する.「出芽方向」は取りうる範囲が狭く,わずかな変化では群体形態はほとんど変化しないため,キサンゴ科の群体形態の多様性に対する寄与は小さいことがわかった.実際に存在するキサンゴ科の非造礁性サンゴの群体形態も再現できた.具体的には,浅海域に生息し,個体が密集し塊状形態をとるTubastraea coccineaと,生息深度がやや深く,個体がまばらに配置し,樹状形態をとるDendrophyllia arbusculaである.両者は異なる成長形態と生活様式を示すが,キサンゴ科に特有な「出芽の規則性」のもと,出芽傾斜と出芽間隔を変えることで,それぞれの群体形態を再現することができた.このことは,特定の出芽の規則性による制約があっても,それぞれの環境条件に即応した群体形態が構築可能であることを示している.
Handa, N., Nakatsukasa, M., Kunimatsu, Y., Tsubamoto, T. and Nakaya, H.: New specimens of Chilotheridium (Perissodactyla, Rhinocerotidae) from the Upper Miocene Namurungule and Nakali Formations, northern Kenya. Paleontological Research, vol. 19, p. 181‒194.
ケニア北部の上部中新統ナムルングレ層およびナカリ層から産出したChilotheridium (奇蹄類,サイ科) の新標本
ケニア北部の上部中新統ナムルングレ層およびナカリ層から産出したサイ科臼歯および下顎化石を記載した.これらの標本にはアセラテリウム亜科の一種であるChilotheridium pattersoniの表徴形質が確認された.また,従来サイ科の一種として記載されていたナムルングレ層の標本のいくつかを,本研究ではC. pattersoniとして再同定した.本研究によって記載されたナカリ層のC. pattersoniは,同地域において初の産出記録となる.さらに,本研究によってC. pattersoniの上顎乳臼歯を初めて報告した.本研究によるC. pattersoniの発見は,同種の産出レンジが後期中新世前期まで延長されることを示す.
2015 Vol. 19 No. 2 Supplement
Matsuzaki, K.M., Suzuki, N., Nishi, H., 2015: Middle to Upper Pleistocene polycystine radiolarians from Hole 902-C9001C, northwestern Pacific. Paleontological Research, supplement to vol. 19, 1-77.
北西太平洋の海洋コアHole 902-C9001Cから産出した中期更新世以降の放散虫
東北日本の下北沖で掘削船「ちきゅう」により採取されたコア試料は過去75万年間の海洋環境変動と,それに 対応した微化石群集の動態 を連続的に記録している.このコアでは放散虫などの珪質微化石を連続的に産出する.下北沖は津軽暖流や親潮の影響を受けており生物生産性が高いうえ,北太 平洋中層水の影響も考えられ興味深い海域である.放散虫種の分布は海水の水温,塩分,栄養塩などに依存していることから,過去の海洋環境を復元するのに有 益である.ところが近年使われている放散虫の分類体系は研究者によって違う場合もあり,同じ形態でありながら別名を示している場合も少なくはない.そこで 本研究では,近年の分子系統解析の最新知見と最新の形態分類体系を統合する形で,海洋コアHole 902-C9001Cから産出した33科66属104種の放散虫について総括した.本論文では,国際動物命名規約に準拠するようホロタイプを重視した分類 を行ったほか,北西太平洋に報告された放散虫関連論文を網羅する形でシノニムリストを作成し,同定上必要な分類学的特徴を記載した
2015 Vol. 19 No. 2
Saeidi Ortakand, M., Hasegawa, S. and Matsumoto, R. 2015: Biostratigraphic and paleoecologic evaluation of the Japan Sea's Joestsu Basin based on the study of foraminifera. Paleontological Research, vol. 19, p. 79–106.
底生有孔虫に基づく日本海上越海盆の生層序と古生態学的評価
日本海東縁部の上越海盆域における古環境を復元するため,大口径ピストンコアMD179-3312(水深 1,026 m,コア長約31 m)について有孔虫群集を分析した.51属107種の底生種と3属7種の浮遊性種を識別し,Qモード・クラスター分析により認定した試料群の層位的分布を もとに,過去約13万年間に相当する堆積層を7化石帯および4亜化石帯に区分した.有孔虫化石相の層位変化を,主要構成種の生態的特性,種多様性,岩相な どの変化とともに検討した結果,全層準を通じて底生有孔虫群集は有機物量と底層の酸素濃度の影響を受けたことが明らかになった.とくにコアの最下部(F1 帯)と最上部(F7帯)の無層理明色層では種多様度と均衡度が高く,活発な鉛直混合によって酸素が海底に供給され,多くの種が生息したことが示唆される. 反対に,葉理の発達する暗色層(TL 層),とくに TL-1と TL-2の層準(F3帯とF5帯)では,種多様度と均衡度が低く,ほとんどの種にとって生息不能な貧酸素環境にあったことを示している.
Shigeta, Y., Nishimura, T. and Nifuku, K., 2015: Middle and late Maastrichtian (latest Cretaceous) ammonoids from the Akkeshi Bay area, eastern Hokkaido, northern Japan and their biostratigraphic implications. Paleontological Research, vol. 19, 107-127.
北海道東部・厚岸湾地域から産出したマーストリヒチアン期中期および後期(白亜紀末期)アンモナイト
北海道東部・厚岸湾西岸に露出する仙鳳趾層からマーストリヒチ アン期(白亜紀末期)のアンモナイト9種の産出を報告し,その時代について古地磁気層序に関する先行研究に基づいて議論した.Pachydiscus flexuosusは仙鳳趾層の下部と中部(クロン C31n,中部マーストリヒチアン階の中部から上部)から産出する.Gaudryceras makarovense, Anagaudeyceras matsumotoi, Diplomoceras cf. notabileは 仙鳳趾層の下部(中部マーストリヒチアン階の中部)から産出する.仙鳳趾層の最上部(おそらくクロンC30nの下部,上部マーストリヒチアン階の下部)は 化石が豊富で,Neophylloceras sp., Pseudophyllites sp., Zelandites varuna, Anagaudryceras matsumotoi, Gaudryceras cf. seymouriense, Gaudryceras sp., Diplomoceras cf. notabileなど多様なアンモナイトが産出する.仙鳳趾層における生層序 と古地磁気層序の統合は,北太平洋地域に分布する同様の化石群を含む地層の時代を正確に決定することを可能にする.
Kazutaka Amano, Robert G. Jenkins and Kozue Nishida, 2015: A new Paleocene species of Bentharca(Bivalvia; Arcidae) from eastern Hokkaido, with remarks on evolutionary adaptation of suspension feeders to the deep sea. Paleontological Research, vol. 19, no. 2, pp. 128-138.
北海道東部から産出したワダツミフネガイ属(二枚貝;フネガイ科)の暁新世の1新種(浮遊物食者の深海への進化的適応について)
北海道東部,浦幌町の暁新統活平層から産出した深海性フネガイ科の1新種ウラホロワダツミフネガイBentharca steffeni sp. nov.を記載した.これは本属の最古の確実な記録である.本種の貝殻微細構造は,繊維稜柱構造の薄層と交差板構造からなる外層,不規則複合交差板構造と 不規則稜柱構造からなる内層を持つ点で現生種のワダツミフネガイB. asperula (Dall, 1891)に類似する.このうち,繊維稜柱構造と不規則稜柱構造は現生のワダツミフネガイにも認められていなかった.本新種の産出により,ワダツミフネガ イ属は少なくとも暁新世には避難所として深海に適応したことが明らかとなった.
Naoto Handa, 2015. A Pleistocene rhinocerotid (Mammalia, Perissodactyla) from Yage, Shizuoka Prefecture, central Japan. Paleontological Research, vol.19, p.139-142.
静岡県谷下地域から産出した更新世サイ科(哺乳網,奇蹄目)化石
静岡県谷下地域の谷下層(中部-上部更新統)から産出したサイ 科の切歯化石を記載する.本標本は以下に示すサイ科の第二下顎切歯の形質を有する:牙状の形態,唇側面のみを覆うエナメル質,涙形の歯冠断面,楕円形の歯 根断面.本標本は大型で頑健な点がRhinoceros属の第二下 顎切歯と類似する.しかしながら,種同定に必要な他の骨要素を伴っていないため,属および種は不明である.従来,谷下地域から多数の大型哺乳類化石が報告 されてきたが,サイ科化石の報告は本研究が初である.本標本の発見は,更新世の極東アジア地域において,サイ科が広く分布していたことを裏付ける証拠とな る.
Wang, S., Shi, Q., Hui, Z., Li, Y., Zhang, J. and Peng, T., 2015: Diversity of Moschidae (Ruminantia, Artiodactyla, Mammalia) in the Middle Miocene of China. Paleontological Research, vol. 19, 107-127.
中国の中期中新世におけるジャコウジカ科(反芻亜目,偶蹄目,哺乳綱)の多様性
筆者らは,本論文では中国の中部中新統から新たに発見された ジャコウジカ科化石,ならびにこれまでに採集されていたジャコウジカ科化石について記載する.既に報告されているHispanomeryx andrewsiを除いて,中国の中部中新統産ジャコウジカ科化石は,それら の歯の形態学的特徴に基づいて2属4種(Micromeryx cf. flourensianus, Micromeryx sp., Hispanomeryx sp. 1そしてHispanomeryx sp. 2)に分類される.これらの標本の年代は,いずれもヨーロッパ陸生哺乳類年代のMN6-MN7/8に対比される新生代中国哺乳類生物年代のトゥングリアン 階(Tunggurian)である.これらの化石記録は,中期中新世の中国に生息したジャコウジカ科動物の多様性が,同時代のヨーロッパ西部の哺乳動物群 における多様性と比較できるものであることを示す.
Tazawa, J. and Nakamura, K., 2015: Early Permian (Kungurian) brachiopods from Nakadaira, South Kitakami Belt, northeastern Japan. Paleontological Research, vol. 19, p. 156-177.
南部北上帯中平から産出した前期ペルム紀クングーリアン期腕足類
東北日本南部北上帯中平地域の細尾層下部から産出した,15属 15種からなる前期ペルム紀クングーリアン期腕足類フォーナを記載した.新種はThamnosia nakadairensisの1 種のみである.中平フォーナは,ボレアル型 テチス型混合フォーナで,中国西北部(新疆ウイグル自治区)および中国北部(内蒙古自治区,山西省)のフォー ナに類似する.南部北上帯は前期ペルム紀(クングーリアン期)の頃,北中国(中朝地塊)の東縁に存在したボレアル区 テチス区漸移帯に位置したと考えられ る.
2015 Vol.19 No.1
Utsunomiya, M., Majima, R., Taguchi, K. and Wada, H. 2015: An in situ vesicomyid-dominated cold-seep assemblage from the lowermost Pleistocene Urago Formation, Kazusa Group, forearc basin fill on the northern Miura Peninsula, Pacific side of central Japan. Paleontological Research, vol. 19, p. 1-20.
三浦半島北部,最下部更新統上総層群浦郷層から産出する現地性の冷湧水性シロウリガイ類化石群集
三浦半島北部に露出する更新世初期の前弧海盆堆積物(上総層群浦郷層)からは,シロウリガイ類が優占する貝 化石群集が産出する.産出する貝化石は主にシロウリガイ類のアケビガイCalyptogena (Archivesica) kawamurai (Kuroda) であり,オウナガイConchocele bisecta (Conrad) もわずかに産出する. これらの貝化石は,底層流によって形成されたと解釈される斜交葉理の発達した砂岩層と,それらが生物擾乱を受けて形成されたと考えられる塊状砂岩層に含ま れる.シロウリガイ類化石のほとんどは離弁で,接合面が底層流の上流方向に傾斜した状態で凸面を上に向けて埋没していることから,底層流により運搬され堆 積したと推定される.塊状砂岩層中のいくつかのシロウリガイ類化石は,合弁で生息姿勢を保持していた.シロウリガイ類化石を含む砂岩層は炭素安定同位体比 の低い(δ13C: -37.78‰~-24.16‰VPDB)高Caドロマイトによってコンクリ―ション化されていることから,嫌気的メタン酸化の影響で沈殿したと考えられ る.以上の産状から,これらのシロウリガイ類は砂堆の上に形成された冷湧水場に生息していた現地性の冷湧水性化学合成群集と考えられる.
Large belemnites were already common in the Early Jurassic―new evidence from Central Japan. Paleontological Research, vol. 19, p. 21-25.
前 期ジュラ紀には大型のベレムナイトが既に存在していた:来馬層群から産出した新たな化石記録
ベレムナイト(Belemnitida目)は,中生代に世界中 の海に繁栄した絶滅頭足類の1グループである.これまでこのグループに関する研究は盛んに行われていたが,その初期進化史については多くの不明点が残され ている.ヨーロッパの研究者を中心とするこれまでの研究では,ベレムナイトはジュラ紀最初期Hettangianに出現し,前期ジュラ紀 Pliensbachianまでその分布がヨーロッパに限られていたと考えられてきた.また,最初期のベレムナイトの鞘の直径は10 mm前後の小型のものであり,中期ジュラ紀になって大型化がはじまったと考えられてきた.しかしながら,近年,東アジア産標本を基に従来の説が大幅に覆さ れつつある.今回,筆者らは富山県に分布する来馬層群寺谷層の上部Pliensbachianより産出した大型のベレムナイトを報告した.これは,ヨー ロッパ・古地中海域以外の地域としては初めてのPliensbachianのベレムナイトの報告である.この来馬層群産ベレムナイトは,同時代のヨーロッ パ産ベレムナイトよりも遥かに大きく,そのサイズは,中部ジュラ系から知られる世界最大のベレムナイトMegateuthisに匹敵する.この産出報告は,古太平洋域では前期ジュ ラ紀に超大型のベレムナイトが既に存在していたことを示しており,従来のベレムナイト初期進化史の改訂を迫るものである.
Sonoda, T., Hirayama, R., Okazaki, Y. and Ando, H., 2015. A new species of the genus Adocus (Adocidea, Testudines) from the Lower Cretaceous of Southwest Japan. Paleontological Research, vol.19, p.26 32.
西南日本の下部白亜系より産出したアドクス属(カメ目,アドクス科)の新種
福岡県宮若市の下部白亜系湖成層の関門層群千石層から産出した甲羅(頚板,左右第1縁板,左第4縁板,左第 2肋板,左上腹甲,および右下腹甲)をもとに,アドクス属の新種Adocus sengokuensisを記載した.本種は,推定甲長約29 cmという小さなサイズ,前後長よりも左右幅の大きな台形をした頚鱗,および第4縁板に見られる第1肋鱗の側方への細い突出によって特徴づけられる.小さ な甲羅サイズと幅の広い頚鱗から,本種はアドクス属において最も基盤的なタクサであると考えられる.
Tazawa, J., Kaneko, N., Suzuki, C. and Hasegawa, S., 2015: Late Permian (Wuchiapingian) brachiopod fauna from the lower Takakurayama Formation, Abukuma Mountains, northeastern Japan. Paleontological Research, vol. 19, p. 33-51.
阿 武隈山地の高倉山層下部から産出した後期ペルム紀(Wuchiapingian)腕足類フォーナ
阿武隈山地(南部北上帯)高倉山(たかくらやま)地域の高倉山 層下部から産出した腕足類15属15種の腕足類を記載した.このフォーナは種属構成がロシア極東地域プリモリエ南部の中期~後期ペルム紀の腕足類フォーナ に似ている.高倉山層下部産腕足類フォーナは,Haydenella wenganensis, Costatumulus tazawai, Pterospirifer alatusを含むことから,時代 的には後期ペルム紀(Wuchiaping)であると考えられる.また,古生物地理学的には,ボレアル型(非熱帯型)のChonetinella, Lamnimargus, Megousia, Costatumulus, Yakovlevia, Neospirifer, Gypospirifer, Alispiriferella, Pterospiriferと,テチス型(熱帯型)のHaydenella, Transennatia, Echinaurisの両者が混在する,ボレアル型-テチス型混合フォーナである.従来高倉山地域のペルム系 は南部北上山地の坂本沢層~登米層に対比される下部~上部ペルム系であると考えられていたが,全体が登米層に対比される上部ペルム系であることが明らかに なった.
Niko, S. and Mapes, R. H. 2015: Early Carboniferous nautiloids from the Ruddell Shale Member in Arkansas, Midcontinent North America. Paleontological Research, vol. 19, p. 52-60.
北 米内陸部アーカンソー州のラデル頁岩部層から産出した前期石炭紀オウムガイ亜綱
前期チェスターリアン(前期石炭紀; 後期ミシシッピー亜紀)のオウムガイ亜綱に属する化石群をラデル頁岩部層(ムーアフィールド層)から記載した. 本群の構成種は, 2新種1新属を含む5種, Euloxoceras buffalowallowense sp. nov., Mitorthoceras perfilosum Gordon, Moorefieldoceras yochelsoni gen. et sp. nov. (オルソセラス目) 及び Tylonautilus sp., Peripetoceras milleri sp. nov. (オウムガイ目)である. 今回の発見により Mitorthoceras の体管は背側に偏在することが明らかになった。新属Moorefieldoceras は, 殻拡大率が大きい, 明瞭な湾曲部を伴う隆起した輪環, 比較的大きな体管径, 中央ないしは中央近傍の体管位置, により近縁既属から区別出来る.
Savazzi, E., 2015: The early Cambrian Eophyton toolmark and its producer. Paleontological Research, vol. 19, p. 61-75.
カ ンブリア紀前期の生痕化石エオフィトンの物痕とその形成者
スウェーデンの下部カンブリア系ミックウィッチア (Mickwitzia)砂岩のエオフィトンの物痕(tool marks)を検討し,それを作った生物の特徴を考察した.同生物は巨大で,中性浮力を持ちうるシュロの葉のような葉状体構造からなるか,触手の束のよう な生物で水流に乗って“帆走”していたと推定される.茎状部だったと思われるこの帆走装置には,径3~100 mm(もしくは,それ以上)の構造が付属し,中に堆積物を入れるか,外側に堆積物を付着させて,錘の役割を担っていた.このアンカーのような錘がエオフィ トン特有の溝を農具のすきのように刻みつつ,同生物は荒天時などには水流により引きずられたと考えられる.このアンカーは,おおむね円盤形で,その周縁部 に小さい粒状構造とヒダが並び,その重みで適度にたわめる柔軟性があった.エオフィトンを作った正体はpsammocoralsとされているが,同じ地層 から産出するものうち,プロトライエルリア属(Protolyellia) の可能性は少なく,スパタンゴプシス属(Spatangopsis) である可能性は完全に否定できないものの,ここで述べたような形態的特徴のすべてを備えている訳ではない.残る可能性は,砂粒を膠結しない未発見の砂粒壁 質動物,放射状触手のような構造をもつ刺胞動物,海草,あるいはケルプ様藻類などがあげられる.
2014年以前の日本語要旨
2014年より前の日本語要旨はありません.